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映画『PLAN 75』出演の磯村勇斗、撮影時の悪天候も味方に「雪やみぞれの方が心情的には合っているのではないか」

75歳を迎えた人々が“自らの生死を選択できる制度”「プラン75」。そんなシステムを導入した近未来の日本を舞台に描いた、日本を代表する名女優・倍賞千恵子主演の映画『PLAN 75』が、6月17日(金)より全国ロードショーされる。

「プラン75」を推進する公務員でありながら、この制度により自身の伯父を失おうとしている青年・岡部ヒロムを演じているのが、近年、さまざまな映画やドラマなどで大活躍中の磯村勇斗だ。学生時代に自主映画を制作していたほどの映画好きとしても知られる彼ならではの視点で、作品の魅力などを語ってもらった。

(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

――本作の脚本をお読みになった際の第一印象をお聞かせください。

「脚本を読んだ時に本当にビビッと来て、『絶対に出演させていただきたい』という気持ちになりました。ちょうど高齢化社会というものに対してアンテナを張っていた時期にいただいたお話で、『これはやりたいな』と。そして早川千絵監督が描く脚本の近未来感やしっとりとした雰囲気にも、とても引かれました」

――磯村さんが以前、監督された短編映画『機械仕掛けの君』にも通じる、閉塞感がまん延した近未来世界が描かれていると感じました。

「自分がいつも考えていることに、すごく近しいものを感じましたね。SFと言いつつも本当に起こり得ることとして、『プラン75』という設定をとても身近に感じましたし、『この脚本を書いた早川監督の感性と似たような感覚が自分にもあるな』と思いました。そういった意味でもぜひ出演させていただきたかったです」

――ヒロム役を演じる際に意識したことはありますか?

「『こういうお芝居をしよう』『こういう表情を作ろう』というのは、特になかったですね。それは早川監督が『お芝居をしないで欲しい』と仰っていたので、いかにその場所に自然にいられるかというところを大事にしたく、考えながらも作らずに、その現場で起こることや、ヒロムの伯父を演じられた、たかお鷹さんとどういう空気感になるか、という部分を重視しました」

――磯村さんが本作の撮影を通してお感じになった、早川監督の魅力をお聞かせください。

「脚本を読んだ段階で『早川さんワールド』に魅了されたので、作品に参加している時点で『監督の描きたいものに染まりたい』という気持ちになっていましたね。監督は撮影時に、リアリズムというところを気にされていたんですが、僕たち俳優陣が演技する場所で、ご自身が実際に動かれて俳優の目線を確認され、どう動くのがリアルなのかを非常に追求されていた姿を目の当たりにして、すごく信頼できる方だな、と感じました」

――本作は雪などの天候も、物語の空気感を生み出すための重要な要素だと感じました。

「クライマックスに程近い、伯父を車に乗せたヒロムが、ある場所へ急ぐ途中に警察に車を停められるというシーンがあるのですが、脚本の段階では晴れている設定だったんです。でも、そのシーンを撮る前日に、『明日は雪の予報だからどうしようか』という話を監督とカメラマンさんとしていたんです。その時に、『雪やみぞれになった方がヒロムの心情的には合っているのではないか』というディスカッションをしました。そういった天候を味方にしていく早川監督はもちろん、脚本をしっかり読み込んで監督が描きたい世界観を共有できているカメラマンさんもすごいなと感じました」

――完成した作品をご覧になった感想をお聞かせください。

「脚本を読んだ時から、作品の根底に流れる緊張感や不安定さを感じていました。実際映画として完成したものにも『これから何か起こりそうだな』という、ろうそくの火の揺らぎのようなものがずっとありつつ、倍賞千恵子さん演じるミチの力強い生き様やヒロムの葛藤、そして外国人労働者の代表として映し出されるマリア(ステファニー・アリアン)という存在など、日本社会の有り様をとても上手く映し出しているなと思いました。社会の裏側のような部分も本作で感じることができ、あらゆる部分がとても細やかに、そして丁寧に描かれていると改めて感じました」

――本作への出演を通して受けたさまざまな刺激について。

「たかお鷹さんとご一緒させていただくシーンが多かったんですが、たかおさんの役者魂を所々で垣間見ることができて、とても刺激を受けました。本当に素晴らしい俳優さんで、隣でいろいろと学ばせていただけたのがうれしかったですね。たかおさん、そして倍賞千恵子さんのように、息の長い俳優さんのお仕事を間近で拝見する中で、仕事に真面目に取り組むことも大切ですが、やはり“人の良さ”が、俳優としての息の長さにつながっているんだな、と感じました。皆さん、本当に温かい方ばかりなので、人柄の良さが一つ大事なポイントかなと思いました」

――さまざまな映画やドラマにご出演されて、ご多忙な日々を過ごされていますが、オンオフの切り替えはどうされていますか?

「あまり自分を気にしていないというか、無理に切り替えようとかは意識していないですね。自分自身のことはとりあえず置いて、役のことを考える方が好きです」

――第45回日本アカデミー賞にて『ヤクザと家族 The Family』『劇場版 きのう何食べた?』の2作品で新人俳優賞に輝きましたが、そのご感想をお聞かせください。

「ようやくスタートラインに立てたと言いますか、『映画界の皆さんに自分を知ってもらった』というところに立ったのかなと思います。これからが自分の勝負になってくるのだと感じています」

――『PLAN 75』の公開を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。

「本作をご覧になったことで、少しでも『生きる』ということや、『命の価値』『自分の人生の進む道』などを考えるきっかけになれば良いなと思っています。それと同時に、今、時代がすごく急変していって、日本でも国際社会でも問題が増えている。僕自身もそうですが、若い世代も、もっと視野を広げて、さまざまなことに興味を持っていくべきだと思いますので、本作を機に社会や政治のことにも関心を持ってもらえるとうれしいです」

――最後にお部屋のこだわりについてお聞かせください。

「『落ち着ける空間であること』が大事だと思うので、観葉植物を置いたり間接照明を使って、夜は暗めに過ごす、というところにこだわっています。ソファも座面が広めで、ゆったりとくつろげるようなタイプのものにしています」

取材・文=中村実香 撮影=永田正雄

インフォメーション

『PLAN 75』

2022年6月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
国は高齢化社会問題に対処するため、75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障し支援する「プラン75」という制度を施行。高齢者の間では、自分たちが早く死ぬことで国に貢献するべきという風潮がにわかに広がりつつあった。市役所の「プラン75」申請窓口で働いている岡部ヒロム(磯村勇斗)は、国が作ったこの制度に対して何の疑問も抱かずに、業務にまい進する日々を送っていたが…。

磯村勇斗

いそむらはやと●1992年9月11日生まれ、静岡県出身。主な出演作にNHK連続テレビ小説「ひよっこ」、『今日から俺は!!劇場版』や『ヤクザと家族 The Family』『東京リベンジャーズ』など。WOWOW開局30周年を記念したプロジェクト「アクターズ・ショート・フィルム」では、監督に初挑戦した。現在、TBS火曜ドラマ「持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~」、『ホリック xxxHOLiC』(4月29日公開)にも出演中のほか、公開待機作に『ビリーバーズ』(7月8日公開)、『異動辞令は音楽隊!』(8月26日公開)がある。

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