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宮田翔実さん監修、ろう・難聴者向けアプリ「Sound Display」で「デフの人たちがより働きやすい環境に」

身の回りの音を認識して、ユーザーに通知してくれるスマートフォンアプリ「Sound Display(サウンドディスプレイ)」。ろう・難聴者が感じる、日常生活や就労時の不自由さ・身の危険を解消し、社会参加しやすい環境づくりをサポートする、このアプリの監修者が、生まれつきデフ(deaf=聞こえない人、聞こえにくい人)の宮田翔実さんです。現在、NPO法人Silent Voice事務局長として、法人活動を支える宮田さんに、お話をお伺いしました。

――宮田さんは学生時代、デフサッカーやデフラグビーの日本代表として活躍されてきましたが、これらのスポーツは何がきっかけで始められたのでしょうか。

「中学3年生の時に、デフサッカーの存在を知ったのがきっかけです。それまで将来何かになりたいと思っても、自分は耳が聞こえないからと諦めてばかりいましたが、同じデフの人々が日本代表として世界大会に出場していることを知り、初めて夢を持つことができました。大学2年生まではサッカーに熱中していましたが、大学で同年代のデフの人たちと出会い、サッカー以外にもいろいろな世界に挑戦してみたいと思い始めました」

デフサッカー日本代表当時のお写真(後列右から5番目、背番号13が宮田さん)

――宮田さんご自身もデフでいらっしゃいますが、日常生活の中で苦労される点はありますか。

「日常生活だと、電話リレーサービスを使用してもクレジットカードなどの本人確認ができないことですね。手話通訳を介して先方と電話のやりとりをする際に、本人でないと手続きができないと言われるケースが多く、郵送での対応になってしまうのですが、時間と手間が掛かりストレスを感じます。また、講演会やセミナーに参加しようと思っても、まず情報保障(手話通訳など)の有無を確認して、ないようなら主催者に交渉しなければならないので、参加へのハードルが高く、情報取得の選択肢が少なくなってしまうこともそうです。動画サイトや映画なども字幕がないことが多く、その場合は見るのを断念しなければならないのも残念なことのひとつです」

――仕事の面ではいかがでしょうか。

「仕事では、偶発的学習が難しいことです。例えば、営業担当者が電話で案件を獲得できたという旨の会話をしていた場合、その会話が聞こえる人は、次に必要なアクションを想像しながら準備したりなど関わり方を考えることができます。しかし、デフはその情報が自然と入らないので、人から教えてもらわないと先回りをして動くことが難しく、その時点で仕事する上で差がついてしまいます。だからこそ、デフにとって“情報の可視化”が、重要なポイントになります。情報を可視化することで、デフだけでなく聴者にとっても、分かりやすい環境につながると考えています」

――普段、周囲の方々とはどのようにコミュニケーションを取られているのでしょうか。

「社外の方々とは主に音声文字変換アプリを使い、コミュニケーションを取っています。私は声を使うことに抵抗がないため、普段からコミュニケーションを取っている人に対しては声を使うのですが、手話が難しい聴者と過ごす場合などは、あえて使わない場合もあります。というのも、自分が声を使うと相手は“声で話すモード”になってしまい、一方的に声で話す方が多いからです。また読唇術は非常に労力がかかるため、内容を理解するためにエネルギーを消費してしまい、その場で物事に対して考えることが難しくなります。そのため、状況に合わせてコミュニケーション手段を変えています」

「Silent Voice」の事業計画発表会にて(写真右)

――宮田さんは「Sound Display」のアプリの監修をされていますが、どのような経緯があってのことだったのでしょうか。

「大学時代、某ファストフード店のアルバイト(キッチン)での経験が一番大きいです。揚げ物の完了音が聞こえず、その都度終わったかどうかを見に行くことが多かったです。それでも他の作業に集中して気付かないときがよくありました。今回監修のお話を頂いた時に、そういった”やりづらさ”が原因で、アルバイトとして働くことに躊躇(ちゅうちょ)している人やうまく周囲と連携できない人がいると直感的に感じ、そういった職場で堂々と働ける一助になればと思い、引き受けました」

――どのような思いをもって、アプリの監修をされましたか。また、監修をされる上で、特にこだわった点はありますか。

「このアプリは、家の中や街の中に流れている音をスマートフォンで拾い、音が聞こえない方に通知する機能を持っています。最大の特長は、自分で音を登録できることです。

開発の過程で、私は当事者として“本当に使えるアプリ”を目指しました。『アプリを使う手間や負担』と『アプリを使うことによるメリット』を天秤(てんびん)にかけたときに、メリットが上回るよう、手間や負担の許容範囲をきちんと見極めて、可能な限りこれらのデメリットを少なくすることにこだわりました。また、当事者が音を登録する際に、聞こえない人自身では何の音がどこで鳴っているのか把握することが難しいなど、当事者の視点をお伝えしました」

――今後、アプリのさらなる可能性に対し、期待することはどのようなことでしょうか。

「私自身、これまで職場で周囲の聴者に音を教えてもらうことが多く、デフの私からすると、幾度となく繰り返されるその行為に対して、申し訳ない気持ちから精神的なしんどさを感じることがありました。何かお返しに自分が役に立てることを探すのですが、なかなか見つからなくて、余計に背負い込んでしまうんです。そんな自分自身の経験も踏まえて開発に取り組んだこの『Sound Display』が、就労現場において音による問題のハードルを下げ、デフと聴者がお互いより気持ちよく働きやすい環境につながることを期待しています」

宮田翔実

1992年生まれ、兵庫県出身。NPO法人Silent Voice事務局長。生まれつきの重度感音性難聴。地域の一般学校に通い、高校生の時に手話に出会う。小学生からサッカーを続け2012年、桃山学院大学在学中にデフサッカーW杯日本代表に選出。卒業後、大手証券会社に勤務。さらなる成長と活躍の場を求めSilent Voiceの創業メンバーとして、ろう・難聴者の強みを育て・生かす社会の実現に向けて活動している。

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