防災

元自衛官ママのローリングストック術!いつもの味が命をつなぐ

災害はある日突然、いつもの暮らしを一変させます。そんなときに頼りになるのが「ローリングストック」をはじめとする日ごろの備えです。ただし、マニュアル通りにそろえるだけでは本当に役立つ備えにはならず、大切なのは自分や家族に必要なモノを見極めること―海上自衛官として災害派遣の現場を経験し、いまは2児の母として日常的にローリングストックを続けているヤマモトクミコさんに、実体験に基づき“命をつなぐ備え方”を教えてもらいました。

(目次)

ふだんのモノを多めに備える「ローリングストック」

地震や台風など自然災害が多く、突然日常が止まるリスクを常にはらんでいる日本。災害時には物流が滞り、スーパーやコンビニから商品がなくなる事態も想定されます。

そこで重要になるのが家庭での備蓄です。なかでも注目されているのが、日常的に使っている食品や日用品を多めに備え、消費した分を買い足していく「ローリングストック」。ふだんからよく使うモノを少し多めに持つというムリのない備え方が特徴で、長期保存しておく「非常食」のように、しまい込んだまま賞味期限が切れてしまうといったムダも防げます。

ヤマモトさんも、2児の母としてローリングストックを実践しているひとり。自衛隊員として東日本大震災の支援活動に1カ月半従事した経験をふまえ、ローリングストックの大切さをこう語ります。

「私がローリングストックをしているのは、やはり災害派遣の経験があるからだと思います。災害時には見慣れた風景が一変し、先の見えない状況に置かれます。それに、被災された方々を支援する私たちのなかにも、じつは家族の安否がわからないまま現場に向かう者がいました。そんななか心にものすごく力をくれたのが、“いつもの味”、“いつも食べているもの”でした。その経験からわが家でもローリングストックが習慣になっています」(ヤマモトさん)

ストックは1週間分?備蓄の方法や量、内容は

ローリングストックの方法はとてもシンプルです。

まず、①ふだんから使っている食品・日用品を多めに持ち、②賞味期限が近いものから順に使い、③消費した分は買い足して常に一定量をキープする――このサイクルを繰り返すだけです。

肝心の何をどれくらい備えればいいかについて、ヤマモトさんは意外にも「人それぞれ」と話します。

「これも実際に災害派遣を経験して感じたことなのですが、必要な備えはほんとうに人によって違います。たとえば、男性と女性でも異なりますし、乳幼児や妊婦さんがいる家庭と、高齢のご夫婦だけの家庭とでは、備えるべきモノがまったく変わってきます。また、同じような家族構成でも、子どもの年齢や持病の有無によって備えの内容は変わり、都市部か自然の多い地域に住んでいるかによっても違ってきます。こうした家族構成や生活スタイル、地域の地理的条件などによって必要な備えは異なり、『このリスト通りに用意すれば安心』というものではないと確信しています」(ヤマモトさん)

つまり、それぞれの家庭で非常時に何が必要かを考え、その備えを実行することが大切だということです。では、備蓄内容を決める際には、どのように考えればいいのでしょうか。

「食品の備蓄については、ふだん食べているもので保存がきき、災害時にも調理がいらないか簡単にすぐ食べられるものをローリングストック用と決めて、多めに買っておくのがいいと思います。つい『あれがない』『これが足りない』と難しく考えがちですが、もっとシンプルに考えていいんじゃないかと思います。量は目安として、私の場合ストックがトータルで3日分以上になるように用意しています」(ヤマモトさん)

災害備蓄で“最低3日分”が推奨されているのは、災害発生から支援物資が届くまでに少なくとも3日程度かかると想定されているためです。近年では、被害の規模が大きくなる傾向にあり、1週間分の備蓄が望ましいとも言われています。特に乳幼児、高齢者、持病のある方がいる家庭は、より多く備えておくと安心です。

食べておいしいものを備蓄!食品ストック

備蓄内容を考える際の参考として、ヤマモトさんのご家庭では主に次のような食品をストックしているそうです。

○飲料水
○レトルトのカレー、冷凍ごはん
○干し芋、ようかん、せんべい、梅干しなどのお菓子類
○はちみつ、塩、醤油、ふりかけなど調味料

「まず、飲み水は欠かせませんよね。あと主食のストックは、わが家ではレトルトカレーとごはんのみです。カレーにしている理由は、家族みんなが大好きなことと、レトルトなら調理不要ですぐに食べられ、種類も豊富だから。ふだんから疲れた日なんかに、レンジで温めて食べたりしています。おやつは、子どもたちが好きな干し芋やようかんなどを多めに用意しています。子ども用に備えておけば、大人ももちろん食べられますよね。さらに、調味料も少し備えています。ごはんは3日後くらいには炊き出しで配られるかもしれませんが、白いごはんが続くと味気ないので、味変用に。ちょっと贅沢かもしれませんが」(ヤマモトさん)

缶詰など定番の非常食が含まれていないのは、こんな理由からだそう。

「ごはんとおかずがセットになった缶詰『缶めし』は、災害備蓄として便利ではありますが、私は自衛隊時代に食べすぎたせいで苦手になって口にできないんです。たとえば、わが家でストックしている干し芋やようかんだって、嫌いな人が3日間食べ続けるのはつらいはずです。そう考えると、長期保存ができるからという理由だけで選ぶのではなく、自分や家族が実際に食べておいしいと感じられるかを、事前に確かめておくことが大事だと思います」(ヤマモトさん)

衛生面を重視!日用品ストック

ヤマモト家の日用品のストックは次のようなものです。

○簡易トイレ
○おしり拭き
○ラップ
○布タイプのガムテープ
○おむつ、サニタリー用品

「簡易トイレは、災害派遣に参加した際、特に女性やお子さんがトイレに困っている印象を受けたことから、備えるようにしています。おしり拭きは子ども用だけでなく、大人でも顔や体を拭くなどいろいろな用途に使えて便利です。ラップは食べかけの食品を包んで保存するのはもちろん、お皿の代わりに使ったり、万が一切り傷などができたときには応急処置として包帯の代わりにしたりもできます。布タイプのガムテープは接着力がとても強く、衣類や靴、ポリバケツなどの一時的な補修に使えますし、簡易トイレに目隠し用の布をかけたいときに、タオルをしっかり固定するなど、さまざまな場面で役立ちます」(ヤマモトさん)

「生き延びるための行動が最優先」

ローリングストックをはじめとする家庭での備蓄は、災害時に命をつなぐためにとても重要なものです。しかし、「いちばん大事なのは、災害発生時にまず生き残ること」とヤマモトさんは最後に呼びかけます。

「たとえば避難する際、『あれもこれも』とローリングストックの食料を全部持ち出そうとしたり、避難後に『あれが足りなかった』と取りに戻ろうとしたりする方がいるかもしれません。でもそれが本当に優先すべきことなのか、一度立ち止まって考えてみてほしいんです。もちろん、食料や必要なモノを確保できるに越したことはありません。ただ、状況によっては命の危険を伴うこともあります。そんなときには、迷わず“生き延びるための行動”を最優先してください。なによりも大事なのは、まず自分や家族の命を守ることです」(ヤマモトさん)

取材・文=杉原由花 イラスト=ヤマモトクミコ

教えてくれたのは

ヤマモトクミコ

北海道・鶴居村在住のイラストレーター。2010年に海上自衛隊入隊し、1年目で東日本大震災の支援活動に従事。約10年間にわたって自衛隊に勤務し、出産を経て退職。独学でイラストを学び、現在は2児の母として子育てをしながら、イラストレーターとして活躍中。

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