
コーヒーを通じて人とつながる――「喫茶ミライ」を監修したコーヒーマイスターが提供する新たなコーヒー体験
俳優の中井貴一さんが出演する大東建託グループのCMが話題だ。未来に思いを馳せる喫茶店「喫茶ミライ」に集う人々が、自分らしい住まいや好きな街・好きな人、環境への貢献などを語り合うという内容に思わずほっこり。そんなCM撮影に、 コーヒー監修として参加したのが、東京・板橋区にある「VIVA COFFEE」のオーナー・中川亮太さん。喫茶店のマスターを演じた中井さんへの所作指導や店内セット、小物のアドバイスなど、大いに貢献してくれた中川さんに撮影の舞台裏を伺った。
完璧だった中井貴一さんのマスターぶり
現場での素晴らしい一体感にも感動した

「はじめに撮影のお話をいただいて、呉美保監督はじめ、スタッフの方が店まで来て下さって打ち合わせをしたのですが、皆さんの熱い思いを聞かされて本当に感動したんです。舞台が喫茶店とはいえ、大東建託 グループさんのCMなので、コーヒーは直接関係ないのに…。ここまで徹底的にコーヒーを真正面から捉えてくれることに感激しました」
中川さんは、かつて会社員だった時代にCM撮影の現場経験がある。だからこそ、これほどの強い思いを込めて撮影に臨むスタッフの姿勢に大いに感動した。「こんなにも熱い思いを持ってCMを作ってくれるなら、自分としてもコーヒー屋冥利に尽きる」という思いで、自身の知見を総動員して協力しようと撮影に臨んだそうだ。当日は、スタジオに組まれた本格的なセットにも驚かされた。
「リアルなセットで、映画の撮影かと思いましたね。内装やメニューなど、細かい部分の再現率も極めて高くてビックリしました。メニューに小さな字で書かれたコーヒー豆の説明なんて、まったく画面に映らないかもしれないのに、しっかり書いてある。僕も思わず熱くなってしまって、『この表現は直したほうがいいですね』などと、余計な口出しをしてしまいました(笑)」

現場では、中井貴一さんへの所作指導も行った中川さん。「中井さんは、ご自分でもハンドドリップでコーヒーを楽しまれているそうで、抽出の飲み込みがすごく早かった。これまで新人教育などで、相当な数の人に指導をしてきましたけど、これほど勘のいい人はいなかったですね。いやあ、中井さんは本当にすごい。この撮影が終わるころには、僕よりも上手になっているんじゃないかと、本気で思いましたよ(笑)」
正しい抽出を教えても、自己流のやり方がなかなか抜けないのが普通らしいが、中井さんはいっさいそれがなかった。「一流の俳優さんは、こんなにすごいのか」と、あらためて実感したそうだ。所作指導はコーヒーを淹れるだけでなく、布巾の持ち方やテーブルの拭き方、入店したお客様への視線の向け方といった、細かな動きにまで及ぶ。喫茶店オーナーでもある中川さんへ意見を求め、時には自分なりにアレンジを加えるなどして、中井さんはすべて完璧に演じられていたという。
「撮影では、器やポット、グラインダーなどのセレクトも私が助言しました。中井さんが使っているポットは、新潟で創業200年を超える鎚起銅器「玉川堂」の職人さんがこだわり抜いて仕上げた特別な一品です。見た目も素敵ですけど、お湯を真下に落とすことのできる優れた機能があり、これが美味しいコーヒーを淹れるためには、大いに役立つんです。狙ったところにピタリとお湯を落とすことができるので、今回の撮影でも中井さんをサポートしてくれたはずです」


撮影時にお客さん役の演者さんたちが飲んでいるコーヒーも、温かいものを用意した。じつはこれも極めて珍しいことだという。
「撮影は長時間にわたるし、普通はそんなことはしませんよ。でも、やはり淹れたての温かいコーヒーを飲めば、演者さんもいい表情が自然に出るんですね。テイクを重ねてカップのコーヒーが減ってくれば、注ぎ足していました。スタッフさんがコーヒーを大切に扱ってくれていることが伝わってきて、とても嬉しかったです」
そんなスタッフにも、中川さんが現場でコーヒーを淹れた。朝から夜までの撮影で、「こんなに頑張っている彼らが飲めないのはおかしい」と思った中川さんは、時間帯によってそれぞれ最適な豆をセレクトしたそうだ。「朝は元気が出るように、午後にはおやつタイムにふさわしいもの」という具合にアレンジし、スタッフも大いに喜んだという。
「コーヒーの魅力は数多いけど、やはり香りの効果は大きいと思います。豆を挽いて抽出すると、香りが最大限に出ます。そのアロマテラピー効果によって脳にアルファ波が出るから、リラックスできるんですね。香りでリラックスしてから味わうと、今度はカフェインで覚醒する。いわば、オンとオフが同居するような形で、心理的な効果は絶大です」
今回の撮影現場においても、そんなコーヒーの効果が大いに発揮され、現場にもいいムードが生まれた。「演者さん、スタッフの方の一体感が素晴らしく、そんな現場にいられたことが本当にうれしかった。達成感も得られましたし、撮影が終了したときは終わってしまうことが寂しかったです」
「最高のコーヒー体験」ができる場所
中川さんが営む「VIVA COFFEE」の魅力

そんな中川さんの店「VIVA COFFEE」は、最高のコーヒー体験ができる場所を作りたいと、2020年にオープン。豆は厳選した高品質のスペシャルティコーヒーばかりを提供するが、地元の人たちに親しみを持って楽しんでほしいために、敢えてそれを強調していない。店頭では、豆の香りを嗅ぐためにスニフターリッドという、ウイスキー用のテイスティング器具を使っている。
例えばアイスコーヒーはエチオピアの浅煎り豆をコールドブリュー(水出し)で提供。水出しだと、通常は香りが出ないと言われるが、中川さんによると「作り方次第で、じつは水出しのほうがしっかり香りが出る」そうだ。芳醇な香りを逃がさないために、ワイングラスで提供するスタイルも店のこだわり。アイスだけでなく、ホットコーヒーもワイングラスを使う。「ワイングラスから湯気が出るのは珍しいので、最初はお客様も驚かれますけど、香りを楽しめることに納得してくれますね」。そのワイングラスも様々なタイプを検証し、モンラッシュ型という膨らみが広いものを選んだ。
「本当に美味しいコーヒーは、冷めてからより美味しい」ことも知ってほしいという。手軽に飲めるコーヒーは熱いうちに飲むのが基本だが、この店で出しているような本格派のコーヒーは、冷め切ってから本領を発揮する。「手軽に飲めるコーヒーは、冷めると雑味やエグ味が出てしまうものですが、本当にいいコーヒーは、冷めきってからなお甘く、透き通ってくるんです」。それを感じるためにもワイングラスが最適らしい。
数こそ多くないもののフードメニューも内容充実。軽食の「チーズパンプレート」が絶品だと評判だ。スイーツでは、「冷やしどら焼き」が名物。冷たいあんこに季節のジャムを入れて、コーヒーとの相性が抜群だという。
「パンやどら焼きの皮にはブラジルが好相性だし、あんこにはグアテマラがとても合います。グアテマラとブラジルのブレンドを飲みながら、どら焼きを食べればもう最高。最初に皮に反応し、次いであんこと、口の中でおいしさの打ち上げ花火が何度も上がる感覚になれますよ!」と、中川さんも強めに推してくれた。
コーヒーの飲み方は意外に幅広い
自分の本当の好みを探求してほしい

「コーヒーは、シンプルな飲み方をされますけど、もっと魅力的な飲み方があるので、それを紹介していきたい」という中川さん。例えば、猛暑の夏であれば、「アイスコーヒーにジンを入れた“エジンバラスカイ”というオリジナルカクテルがオススメ。寒い冬には、ホットコーヒーにラムを入れる“ブラックローズ”が定番です。本当に温まりますからね。あとは、開店当初からある“燗コーヒー”。これは、日本酒の熱燗でコーヒーをブリューして提供するものです」
日本酒にも造詣が深い中川さんだけに、酒に合わせてコーヒーもセレクトするというこだわりぶり。燗コーヒーは、キャッチーなネーミングの妙もあり、メディアの取材でも取り上げられることが多く、すっかり店の名物になっているという。
コーヒーに関して、中川さんが普段感じるのは、「本当の自分の好みをわかっているか」という疑問だ。「酸味が強いのは苦手」という人も、「本当に美味しい酸味のコーヒー体験をしていないだけ」という場合がほとんどだという。近年浅煎りのスペシャルティコーヒーの人気の影響で、深煎りを否定する方もいるが、「もっと間口を広げて、体験を増やしてほしい。お店でたくさんの豆を試飲して香りや味の違いも確かめながら、自分の好みを見つけてもらいたいですね。体験することで、新たな世界が開きますから!」
ワイン同様に、コーヒーも風土や気候の違いで産地ごとにまったく特徴が異なる。そんな品種の特徴も意識しながら、本当に自分に合ったコーヒーを探していく。さらにくつろぎの空間を提供するお店を捜し歩くのもいい。「コーヒーはコミュニケーションの中心的な役割を果たすもの」という中川さん。だからこそ、こだわり抜く。会社員時代には理想のコーヒーを求めて、ハワイや東南アジア、中米諸国などのコーヒー農園を旅してまわったという。コーヒーをひたすら愛し、徹底してこだわり抜く中川さん。そこまでは真似できないが、コーヒーの魅力と奥深さを探求し、自分なりに“理想の一杯”に出合ってみたいものだ。
取材・文:渡辺敏樹
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自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE(ビバ コーヒー)
住所:東京都板橋区高島平1丁目38-11 プレリエ高島平 103
営業時間:11:00~18:00(金曜・土曜~19:00)
定休日:火曜・水曜
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