
住んでから気づく「音」の悩みに――賃貸住宅でできるかんたん防音術3選
引越ししてしばらくたち、生活が落ち着いてきたころに気になり始めるのが「音」の問題。隣の部屋から聞こえる話し声やテレビの音、自室から下の階へ響いてしまう足音、外を走る車の音……。一度気になりだすと、意外とストレスになるものです。
そこで今回は、防音のプロに、壁や床を傷つけにくく賃貸住宅でも取り入れやすい防音対策を教えてもらいました。特別な工事をせず、家にある家具やカーペットを活用する方法から始めてみましょう。
住まいで気になる音は、空気を伝わる音と、建物の振動として伝わる音に大きく分けられます。隣室の話し声やテレビの音などは空気を伝わり、壁などを介して聞こえてきます。外での話し声や車の音などは、窓や換気口といった開口部から室内に。自室の足音などは、床や壁など建物の構造を通じて振動が伝わり、響いていきます。
このように音は床・壁・窓などさまざまな経路から伝わるため、発生源を厳密に特定するのは難しいもの。しかし、気になる音がする方向に近づいて耳を澄ませてみるだけでも手がかりになると、防音専門会社ピアリビングで防音アドバイザーを務める梶原栄二さんは言います。
「外から聞こえてくる音は、窓や換気口などの開口部から入ってくることが多いですね。足音は天井から聞こえているようでも、実際には天井から壁へ振動が伝わって響いていることもあります。音がどこから聞こえてくるのかを確かめる場合、たとえば壁であれば、壁の近くで耳を澄ませるのがポイント。壁に直接耳を当てるとさまざまな音が聞こえてしまい、かえって判断しにくくなるからです」(梶原さん)
また、建物の近くに線路や交通量の多い道路がないか、共用部に子ども用の自転車が置かれていないかなど、周囲の環境を観察することも、音の原因を探るヒントになります。
隣室からの話し声やテレビの音が気になる場合、まず試したいのが自室の家具の配置換え。隣室との境界壁の前に本棚や収納棚など高さのある家具を置くことで、壁から音が伝わるのをやわらげることができます。
「家具を置くなら、低いローテーブルのようなものではあまり効果が期待できません。目安としては、壁の高さの半分以上の高さがあるといいですね。できるだけ壁の面積を覆う方が効果は出やすいです」(梶原さん)
なかでも本棚はおすすめ。中に本を入れることで重量が増し、それだけでも音を遮りやすくなるといいます。収納棚や食器棚などを置く場合は、家具を壁にぴったりつけず、間に吸音材などを挟むとより音が伝わりにくくなります。
「市販のスポンジ状の吸音材のほか、使っていない折りたたみ式のマットレスなど厚みのある柔らかなものを挟むのでもいいです。家具だけよりも、音は伝わりにくくなります」(梶原さん)
この方法なら、いかにも“防音対策をしています”という見た目になりにくいのもメリット。もともと部屋にあるものを活用できますし、お気に入りの本棚や収納家具を選べば、インテリアを楽しみながら対策できます。
「吸音材を壁に貼るだけ」はNG?
防音グッズとしてよく見かける、スポンジ状の吸音材や、薄い遮音シート。簡単に防音できそうですが、家具などと組み合わせずそれぞれを単体で貼っただけでは、隣室との防音対策として十分な効果が得られにくいそうです。
「吸音材は文字通り音を吸収するものなので、音そのものを遮るものではありません。遮音シートも薄いものを壁に貼るだけでは、もともとの壁の重さに比べて増える質量が小さすぎて、変化が出にくいですね」(梶原さん)
本格的に壁を対策するなら、吸音材と遮音材を組み合わせるのがポイント。効果を高める方法のひとつが、“吸音材+遮音材+吸音材”の3層構造です。吸音材で音をやわらげ、遮音材で音を遮り、さらに壁側の吸音材が壁へ振動が伝わるのを抑えます。
足音や椅子を引く音は、音が発生する床側で対策するのが基本。フローリングはこうした衝撃がそのまま響きやすいため、床に柔らかいものを敷くだけでも音を抑えられます。最も手軽なのは、カーペットやラグを敷くことです。
「椅子を引きずる音くらいであれば、薄いカーペットを敷くだけでもぜんぜん違いますよ」(梶原さん)
子どもが走る音などより強い足音を抑えたい場合は、カーペット選びにもポイントがあります。
「厚みがあるもの、ある程度重量があるもの、裏面にクッション性があるものを選ぶと足音をやわらげやすくなります。薄いものだと、踏み込んだときに“底付き”して床へ振動が伝わってしまうんです」(梶原さん)
さらに手軽に防音性を高めたいなら、カーペットの下にクッション性のあるフェルト材を敷く方法もあります。
「ホームセンターなどで売られている1cm弱くらいのフェルト状のものをカーペットの下に敷くだけでも床に振動が伝わるのを軽減できます。ジョイントマットの上にカーペットを重ねるような方法でもいいですね」(梶原さん)
カーペットは面積が大きく、部屋の印象を左右するアイテム。防音だけを目的に選ぶのではなく、色や柄、素材にもこだわれば、インテリアの一部としてなじませることができます。
もっと足音を抑えたいなら専用マットも
カーペットやフェルトだけでは足音が気になる場合は、防音専用のマットを取り入れる方法もあります。
ピアリビングの「足音マット」は、ラグやカーペットの下に敷いて使う床の振動対策用マット。置いて敷くだけなので、床に固定する工事も必要ありません。
「実際に木造住宅やマンションで検証したところ、ドタドタと聞こえていた音が、遠くで聞こえるような感じになりました」(梶原さん)
ラグやフェルトなど身近なものから試し、それでも足りない場合に専用品へステップアップするのもひとつの方法です。
車や人の話し声など、外から聞こえてくる音が気になる場合、賃貸住宅でも取り入れやすいのが防音カーテンです。
防音カーテンは、車が走る際のロードノイズや外から聞こえる人の話し声といった音の軽減に向いている一方、どんな音にも同じように効果があるわけではありません。
「話し声などは小さくなったと感じる方が多いようですが、トラックやバイクのエンジン音のような低い音や、線路から振動が伝わってくるような音は、防音カーテンだけではなかなか抑えづらいです」(梶原さん)
防音カーテンは「隙間をなくす」ように吊るす
防音カーテンは、ただ吊るせばいいわけではなく、取り付け方も重要。ポイントは、音が入り込む隙間をできるだけ作らないことです。
一般的には窓側にレースカーテン、室内側に厚手のカーテンを吊るしますが、防音を優先する場合はその逆。窓側のレールに防音カーテン、室内側にレースカーテンを吊るすようにして、窓との隙間を小さくします。
また、丈も短いものより、床ギリギリまで届く長さに。幅にも少し余裕を持たせ、窓の左右までしっかり覆うようにしましょう。
「音は隙間からも入ってきます。丈は少し長めでもいいくらい。幅も余裕のあるものを選んで、できるだけぴっちり覆うイメージですね。“薄い壁”をもう一枚つけるような感覚です」(梶原さん)
防音カーテンもデザインやカラーの選択肢はさまざま。部屋のテイストに合うものを選べば、インテリアになじませることができます。
賃貸住宅で注意したいのが、対策グッズの固定方法です。たとえば、遮音シートを画鋲で壁に固定したり、吸音材を両面テープで直接貼ったりすると、退去時に壁紙を傷める可能性があります。「貼って剥がせる」と表示されたテープでも、長期間貼ったままにすると壁紙まで剥がれてしまうケースがあるそう。
壁に防音グッズを設置したい場合は、突っ張り式のラックや、ホームセンターなどで手に入る突っ張りタイプのDIYパーツなどを使い、壁そのものに穴を開けたり貼りつけたりしない方法を選ぶと安心です。
床に防音マットなどを長期間敷く場合も、特にクッションフロアなど床材によっては色移りする可能性があるので、気になる場合は保護シートなどを間に入れておくと安心です。
防音対策というと、壁も床も窓も全部対策しなくてはいけないように思えますが、最初から完璧を目指す必要はありません。
「防音はやり始めるときりがないんですよね。一度に全部やろうとすると予算もかかるので、一番気になる部分からやってみるのがおすすめです。お隣の声なら壁、外の音なら窓というように、少しずつ対策を増やしていけばいいと思います」(梶原さん)
隣室からの音なら家具の配置を変える、自室の足音ならラグを敷くなど、まずは気になる音に合わせて、家にあるものや身近なアイテムから試してみましょう。改善が足りなければフェルトや防音カーテンをプラスし、それでも気になる場合に専用の防音用品を検討する――というように段階的に試していけば、費用も抑えられます。
賃貸住宅で試せる音対策はいろいろあります。音の悩みを我慢せず、自分の部屋に合った対策を試してみてはいかがでしょうか。
取材・文=杉原由花 イラスト=ヨシカワミノリ
教えてくれたのは
株式会社ピアリビング・梶原栄二
防音マットやカーテン、パネルなど、家庭で取り入れやすい防音用品を扱う株式会社ピアリビングの防音アドバイザー。東京ショールーム支店長として、これまで3万件以上の防音相談を担当している。