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【週末エンタメ】天才監督ポール・トーマス・アンダーソンらしさが満載!風変わりな青春物語『リコリス・ピザ』

目次

世界三大映画祭であるカンヌ、ベネチア、ベルリンのすべての監督賞を受賞した希代の天才映画監督、ポール・トーマス・アンダーソン。1996年の『ハードエイト』で長編デビューを果たし、LAに住む男女9人の24時間を描いた群像劇『マグノリア』、“現代の『市民ケーン』”と称された男の一代記『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など、数々の傑作を作り上げてきた。

これまでのすべての長編で監督、脚本を手がけていることからも分かるように(『ファントム・スレッド』では自ら撮影まで担当)、アンダーソン監督は独自の作家性と強いこだわりを持っている。7月1日(金)公開の最新作『リコリス・ピザ』も、彼らしさが存分に詰まった作品だ。

男女の回り道な恋模様を描く『リコリス・ピザ』

ビジネスを通して、不器用に距離を縮めていく男女を描く (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

長編9作目となる『リコリス・ピザ』は、1970年代のハリウッド近郊の街サンフェルナンド・バレーを舞台に、高校生の男の子が10歳年上の女性と出会い、紆余(うよ)曲折を経ながら恋に落ちていく様子をみずみずしく描く青春ドラマ。

カメラスタジオで働くアラナ(アラナ・ハイム)は、写真撮影のために足を運んだ学校で、15歳の少年ゲイリー(クーパー・ホフマン)に声をかけられ、「君と出会うのは運命なんだよ」という強引な誘いから食事をすることに。

高校生ながら俳優として活動し、さまざまなビジネスを展開する自信家なゲイリーと将来が見えない日々を過ごすアラナ。ゲイリーが新たに手を出したウオーターベッド販売のビジネスパートナーとして距離を縮めていく2人だったが、次第にそれぞれの道を歩み出し……という、一風変わった青春模様が繰り広げられていく。

アンダーソンが生まれ育った街、サンフェルナンド・バレーへのこだわり

主人公のアラナを演じるアラナ・ハイムもサンフェルナンド・バレーの出身 (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作の舞台となっているサンフェルナンド・バレーは、ハリウッドの近郊に位置し、テレビ局や映画のスタジオが点在する地域。アンダーソン監督が生まれ育ち、いまなお生活を送っている場所であり、それゆえにこの地を舞台にした作品も多い。

例えば、出世作となった1本『ブギーナイツ』では、サンフェルナンド・バレーの一大産業であるポルノ業界にスポットを当て、1970年代後半を時代背景に、1人の青年が業界で成り上がり破滅していく光と影を活写した。

次ぐ『マグノリア』もこの地域を舞台にした1作で、ご長寿クイズ番組の司会者、プロデューサーといったテレビ関係者をメインキャラクターとした物語を紡いだ。

ブラッドリー・クーパーが演じたジョン・ピーターズは、クレージーな名物プロデューサー (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ウィリアム・ホールデンをモデルとしたジャック・ホールデンをショーン・ペンが演じる (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『リコリス・ピザ』でも子役として活動する主人公ゲイリーをはじめ、ブラッドリー・クーパーが演じた実在の映画プロデューサー、ジョン・ピーターズやウィリアム・ホールデンをモデルとした俳優など業界人たちが次々と登場。この地ならではの華やかで奇妙な人間模様を描いている。

華やかなビジネスの栄光と、その裏で生じる「家族の崩壊」

そんな華やかなビジネスの世界の裏にある破綻した家族像も、アンダーソン監督作で繰り返し描かれてきた重要なエッセンスのひとつだ。

『ブギーナイツ』の主人公は、高校を中退したことで家族からさげすまれ、家に居場所がない状態。そんな時に拾われたポルノ監督と、疑似的な父子関係を築き上げていく。『マグノリア』では、家族よりもテレビ業界での成功を選んだ父とそんな父を憎む息子、修復不可能な溝を抱えるテレビ司会者とその娘など、家族の不和とその先にある関係修復へのかすかな希望がラストに訪れる(仲は良好だったそうだが、実際にアンダーソン監督の父もテレビの司会者だった)。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』では、石油王として成り上がる男の生涯と反比例して、ビジネスパートナーでもある息子との悪化していく関係が描かれた。

ゲイリーはピンボールなど、高校生ながらさまざまな事業を展開していく (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『リコリス・ピザ』では直接的に家族関係の崩壊が描かれているわけではないが、ゲイリーの父親は一度も映画に登場せず(離婚しているのかも特に言及されていない)、ゲイリーと母親は俳優とマネジャーというようなビジネスライクな関係を築いている。

またウオーターベッドの販売に乗り出したゲイリーとアラナは、恋の予感を覚えながらもビジネスパートナーとして距離を縮めていき、そしてビジネスを超えた関係を築き上げようとしていくのだ。

クーパー・ホフマンや家族も起用するなどキャスティングにもアンダーソンのこだわりが感じられる (C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

キャストに目を向けてみても、アンダーソン監督作品の常連俳優だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンを主演に迎えるなど、随所に個人的なエッセンスが散りばめられている『リコリス・ピザ』。そんな自身の思いや青春時代が色濃く投影された作品だからこそ、観客の心を震わせることができるのだろう。

文=ケヴィン太郎

インフォメーション

『リコリス・ピザ』

2022年7月1日(金)より全国ロードショー
https://licorice-pizza.jp/

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