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ディスクユニオン店員が解説! 今すぐ足を踏み入れたくなる、アナログレコードの沼深き世界

目次

近年、人気が再燃しているアナログレコード。かつてレコードに親しんだ中高年層だけでなく、若者層、さらに都内のレコード店には海外から足を運ぶ客の姿も珍しくなく、その過熱ぶりは世界的なものともいえる。

今回は、大ブームを巻き起こしているレコードについて現在の事情や魅力、初心者向けのアドバイスといったあれこれを、大手レコード店ディスクユニオンの店員で自身も3,000枚近いレコードを所有するコレクターでもある山中明さんに伺った。

新品リリースも急増中! 近年のレコード事情とは?

人気を受け、レアな中古レコードの価格は高騰しているそう(新宿ロックレコードストア)

「つい先日、中学生の女の子5人組が店を訪ねてきたのですが、探していたのがイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンドGenesis(ジェネシス)のレコード。キャッキャと盛り上がりながら買っていくさまを見て、『いい時代になったなぁ』としみじみしましたね(笑)」と現場スタッフとして確かなシーンの過熱ぶりを体感しているという山中さん。

「新品のリリースが増え、プレス枚数もほんの10年前では考えられなかったほどに激増しています。一方、限りある資源ともいえるヴィンテージ・レコードは個体数を徐々に減らしています。オンライン上での個人間トレードの発展や円安の影響による海外への流出等も相まって、著しい価格の高騰がみられます」と語るように、業界全体にも変化が起こっているそうだ。

不便さが楽しい? 人々をとりこにするアナログレコードの魅力

山中さんが所有する「RED FUNK」のレコードの数々

幅広い層に浸透し始め、以前よりも手を出しやすい状況となっているレコード。とはいえ「面倒で厄介で低コスパなものかもしれません。傷があったらノイズが鳴るし、ネットを隅々まで調べても見つからないレコードも山ほどあります」と山中さんが言うように、スマホ一つであらゆる音楽にアクセスできるデジタルとは真逆の“不便”な存在。では何が魅力なのだろうか?

「デジタルの発展に対するカウンターとしてアナログへの回帰が高まっているのでしょう。レコードは音だけではなく、ジャケットのデザイン、再生する時の所作、そしてその手触りや匂い(笑)まで、デジタルにはない魅力を持っています」と山中さんが分析するように、アナログならではの趣こそが魅力であり人気の大きな要因なのだろう。

「今っぽくないフィジカルメディアだからこそ、代え難い面白さがあると思うんですよ。傷一つにもそれぞれのストーリーがあるもので、『この曲で盛り上がって傷を付けてしまったんだろうなぁ』とか思いを巡らせてみたりもするんです」(山中さん)

そんな細かいところまで? マニア心をくすぐる“沼”なポイント

レコードの最内部分に刻まれているマトリクスと呼ばれる番号(筆者撮影)

一度、手を出すとどんどん深みにハマってしまうレコードの世界には、至るところに“沼”なポイントが待ち受けている。

「コレクターはすごいもので、複製を繰り返すほど音の鮮度が落ちていくアナログメディアの弱点を攻略しようと、盤の最内周部に刻印されている“マトリクス”と呼ばれる暗号を読み解いていきました。マトリクスは製造順を示す番号のようなもの。番号がより若い、つまり音の鮮度が保たれている(かもしれない)ものを追い求め、今やたとえ同じ作品でも、番号が一つ違うだけのものに何万円、何十万円という追加プライスが付いているんです」(山中さん)

レコードジャケットを覆う薄いビニールをシュリンクと呼ぶ(筆者撮影)

そんな山中さん自身もつい“シュリンク”には心を動かされてしまうとか。「新品出荷時にジャケットを包んでいる薄いビニールなのですが、えも言われぬ魅力があるんです。本来、破り捨てられて当然のものなので、シュリンクが残っている個体は大事に取り扱われてきたものともいえます。そんなシュリンクの上にカッコいいステッカーが貼られていることがあったりすると妙にグッときて、持っているレコードでもつい買ってしまうんです」

おすすめのプレーヤーは? 初心者向けレコード講座

ディスクユニオン最大規模を誇る新宿ロックレコードストア

話を聞けば聞くほどディープなレコード。そんな世界にトライしてみたいという初心者に向けて、おすすめのアイテムなど、いくつかアドバイスを伺った。

まずはレコード店に足を運ばないと何も始まらないが、コレクターが集うお店には何かルールがありそう…。「マナーといった大層なものはないですが、一つだけ駄目なのは、レコードをトントンと素早くリズミカルに見ること。これがカッコいいなんて風評が立った時代もありましたが、ジャケットを傷めてしまうだけなんです。あとは店員におすすめ盤を聞くのもいいかもしれません。レコ屋の店員は、みんな音楽の話がしたくてウズウズしてるんです(笑)」(山中さん)

スピーカーが内蔵され一台でレコードを楽しめるタイプも人気だ

レコードを手に入れたら、再生するプレーヤーも必要。昨今は1万円を切る価格帯のプレーヤーが登場するなど種類も豊富だ。「おすすめはION Audio社製のプレーヤー『Archive LP』です。価格は1万円程度と最安値ラインですが、美しい木製ボディー、スピーカー内蔵、RCA端子やUSBでの外部接続も可能と至れり尽くせり。より本格的なものであれば、英国Rega社製のプレーヤー『Planar』シリーズや日本が誇る世界の標準機、Technicsの『SL-1200』シリーズもよいです」(山中さん)

商品情報

ION AUDIO MAX LP

価格:12,800円(税込)
購入はこちら

ディスクユニオンの業務でも使用しているプロ仕様の「レコクリン」

「よりいい音で聴いたり、大事なレコードを大切に扱っていくには信用できるクリーニング用品が不可欠です。その点、『レコクリン』は私たちも日常的に業務使用しているので安心ですよ」とレコードライフを支えるクリーニング剤についても教えてくれた。

商品情報

レコクリン

価格:1,540円(税込)
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1960~70年代の音楽が好きになり、自然とレコードに興味を持つようになった山中さんのように入り口は人それぞれ。好きな音楽を集めるも、自宅に飾りたいと思うジャケットで選ぶも、安く手に入るものを買うもよし。まずは1枚レコードを手に入れて、針を落としてみれば、深淵な世界がおのずと見えてくるはずだ。

文=野宮ジュン

山中明

レコード・バイヤー/ライター/エセ漫画家
1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にレコード愛好本『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、ソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐A Young Person’s Guide To Psychedelic Music USA/CANADA Edition』などがある。

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